Saturday, November 05, 2005

 

イチゴの入院


 開いた口がふさがらない
カタマランのことをヨット仲間ではキャットと呼ぶ、ヨットではないが我が家のキャットは猫のイチゴである。

うちの家には飼い猫のイチゴと呼ぶトラ猫のメスがいるのです。SPCA(動物愛護協会)から貰ってきてもう11年一緒に暮らしています。
猫は本来夜行性動物なので、昼間は家の中で寝ていたり草むらで日向ぼっこしてうとうとと過し、エサの時間になると何処からともなく現れてエサをねだる。猫はエサの選り好みが激しく気に入らないとなかなか食べてくれない、猫用の缶詰を与えるのだが直ぐ食べ飽きて味付けに魚とか肉などを入れてくれとストライキしてエサの前に座り、色をつけないと食べない。食べろと猫の顔をエサに近づけても食べる振りをしてスーッと離れて「私は出てゆく」と入り口に向かう、ドアーを開けてやり「食べないなら自分で獲れ」と猫に言って追い出す。猫はすごすごと少し離れた所へ移動して身繕いを始めるが、しばらくすると何事もなかったように媚を売りに来てエサをくれとねだる。その媚売りの鋭さに根負けして又エサを少しやってしまう。
やっぱり自分の好きなエサじゃないと食べない、又外へ追い出す。何度同じことをやっても懲りずに又エサをねだる。
飼い主の方が根負けしてチーズか何かをキャットフードにかけてやる。これで話し合いが成立したと言わんばかりに食べ出す。まったく食いもんにうるさい。飼い主も甘やかすので余計にエサの選り好みをする。
  こんなイチゴであってもエサをガツガツ突然食べだす時があり、その上もっとくれとお替わりを要求してこれも食べ干す。
凄く食べるものだと感心していると「ああ~食った」と腹を膨らめ、丁寧に身繕いをして自分のベッドで丸くなって寝てしまう。
こんな時には必ず雨が降り出す。 猫の気圧計は感心するほど正しいことが判る、外はまだ晴れているにも拘らず猫がエサを腹一杯食べ寝てしまうと天気が崩れる。今日の天気が心配な時には猫の様子を窺い、今日一日天気が崩れずに持つのか崩れるかを予想する。まず100%当たる事は長年の観察から疑い知れない。
  猫というのは寝ているようでも周りを観察していて耳をピクピクと動かしながら寝ているのだ。熟睡していると思ってもイチゴと言う名前を出すと耳がぴくりと動いたり、デッキで寝ていると思うと突然走り出し草陰に身を伏せる。どうしたんだろうと猫を覗き見ると鳥が近くの小枝に止まっておりそれを身を伏せながら狙っている。時にはキジの成鳥を獲ってきてガレージの前にまだ温かいその鳥をぽんと捨てるように置いてある。飼い主の我々の方がこれは美味そうだと思わず毛をむしりとり腹を出し今晩のおかずと冷蔵庫にしまい込み夜の夕食にとローストにして食べてしまった。イチゴに悪いと少しお裾分けをしたが猫は自分の獲物を横取りした飼い主に愛想を尽かし知らん顔をしていた。
  こんなイチゴがある朝エサの時間に現れない。窓から「イチゴー」と大きな声で呼ぶと「ニャ~ン」と縁の下辺りから泣き声が聞こえイチゴが現れた。今日のイチゴはどこかおかしい、良く見ると口を大きく開いたままよだれをダラダラと流している。
「どうしたのイチゴ」といっても小さな声で鳴くだけで何時もの元気が無い。何故口を大きく開けているのか判らない「何か変なものでも食べたのか」と言ってもイチゴが答えられるわけがない。首や耳の辺りに何かに噛まれた跡も見える。早速インターネットでこんな猫の様子について調べたが、口を開けっぱなしの猫なんて例が無い、何かちょっとしたことでどうにかしたのだろう、そのうち直るだろうと其のままにしておいた。しかし、夕方になってもまだイチゴは口を大きく開いたままでよだれを流している。さすがに鈍感な我々も気が付き始めた。
「ひょっとしたらあごが外れたんではないか?」と、猫のあごが外れたなんて見たことも聞いた事もなく想像もつかない。「開いた口が締まらない」とはこのことだ。
とにかく動物病院へ連れて行くことにする。何時も用心深いイチゴがどうしたんだろうと思いながら獣医へ連れて行くが
獣医もあごが外れた猫なんて見たこともない様子、多分あごが外れたんだろうハメテ見ると言う。「猫が痛がると可哀想なので」と麻酔を打たれイチゴはそのまま入院する事になる。獣医に「又明日迎えに来てくれ」と告げられ、不安な気持ちで家路につく。
  翌日、イチゴの開いた口が締まるようになったかと心配しながら獣医に行き待合室でしばらく座って待つと、
獣医の事務員と言うか看護婦と言うか?に抱かれてイチゴは現れる。親子の対面のように感激の再会、イチゴの口元を見るとあの開いたままの口が締まっている。*よかった直った!*とイチゴを抱きかかえる。
柔らかいエサをやってくれと注意され、治療費を払って家に連れて帰る。不安からイチゴは移動用に使う籠の中で小さな声で鳴いていたが家に戻り庭に放してやると、少し自分の縄張りを調べてみてから何時ものような行動をする。心なしか元気が足りないが又元のイチゴに戻ったようだ。獣医では何も食べなかったと聞かされていた。イチゴは家に帰り着くと獣医から貰ってきた日ごろ食べたことの無いペットフードを喜んで食べる。猫は用心深く何時もと違うペットフードは食べないのに美味そうに全部食べ干す、また元のイチゴに戻ったとホットする。エサを食べ終わり入り口にうずくまりじっとしているイチゴを眺め、まだ本調子ではないな~と思っていると何となく様子がおかしいので覗き込んでイチゴを見ると、以前よりましだが又口を開いたままよだれを流しているのだ。
腹が減ってガツガツ餌を食べたところ又あごが外れたのだ。慌てて獣医に電話を入れる。「連れて来てくれ」又トンボ返りで獣医にイチゴを連れてゆく。「もう一度あごをはめて見るがもし直らないようでは安楽死させるより仕方が無い」と獣医より告げられる。
妻(つや子)はそれを聞かされた途端涙をぽろぽろ流し泣きだした。獣医も困った顔をしているが、自分が直せないとは言えないし「何とかやってみる3日ぐらい入院させてくれ」と言う事だった。
やっと家に戻ってきたイチゴをまた獣医に預けメソメソしている妻と家に帰る。翌日、朝起きて何時ものようにイチゴのエサを作ろうとしている自分に気が付く 「そうだ、イチゴはいないのだ」 毎朝イチゴとエサを食べろ、食べないのか?好き嫌いをするなと駆け引きの知恵比べをしながら猫にエサをやるのに今日は猫がいない、何と無く空白の時間が流れ寂しさが漂う。
  三日後獣医に顔を出しイチゴの様子を見てみる。看護婦に抱かれてやってきたイチゴは、顔にラッパの開いたものみたいなプラスチックを巻きつけられ、のどに管を通されている。「この管から流動食を流し込んでいる」と説明され、開いていた口は締じており意外と落ち着いて看護婦さんに抱かれている。他人に抱かれた事が無いイチゴが目を大きく開いておとなしく泣きもせず抱かれている姿は、飼い主が見ると不思議な光景である。タッタ3日しか経って無いのに飼い主を忘れたのかと思うほどおとなしく抱かれているのだ。猫も治療してもらっているのを知っているのか?、あんなに人見知りをするイチゴがおとなしく抱かれている様は印象的だった。しかし獣医の第一声は完全に直るか3週間見て安楽死させるかどうか決めると言われる。妻は又涙を流し泣き顔になる。しかし今日は何故か少し明るい気持ちになっていた。あのイチゴの何となく安心顔を見てきっと直るよと言う自信のような物を感じたせいでもある。記念写真を撮ってやらなければと言いつつ獣医を後にする。
二日後イチゴの見舞いに獣医に立ち寄る。イチゴは相変らず首の周りをプラスチックで固められよく顔を見てみると細い管を鼻の穴に入れられグルッと顔から管をクビのところまで回されそこから流動食がのどに流される仕組みになっている。
今からエサをやるから見てゆけと言われる。一人がイチゴを動かないように押さえ、注射器の針をはずした物を二本使い、先ず最初の一本は、流動食が流れやすくする為にサラダオイルのような物を潤滑油として流し込むのに使い、後の一本は水でスープ状に溶かした流動食を流し込む。油や餌が流れる度プクッとお腹が膨らむ。経験にやってみたがかなりの力で押し込まないと細い管から猫の鼻の穴を通りのどまでエサを流し込むのは意外と難しい、こわごわやってみたが餌が入って行かず看護婦さんに代ってもらう、どのぐらい力を入れ押せば良いのかわからなかった。
イチゴは予想通り運動不足のため太り始め顔が少し変ってきたように思う。このまま入院をつづければ今抱かれている看護婦さんのように丸く太って糖尿病の猫になってしまうのではないか?と心配する。
今日も雨の中をイチゴのお見舞いに行く。もう入院してから10日も経つ、ケージに入れられたイチゴは見違えるほど元気になっており食欲もあると言われる。家に連れて帰っても良いと言う獣医の言葉であった。見舞いのつもりで行ったのに連れて帰れると言われイチゴを迎える用意が出来ておらず少し戸惑うが、又イチゴのあごが外れないか心配しながら家に連れて帰る。
10日間の入院ですっかりイチゴは獣医のケージに慣れておりケージに逃げ戻ろうとする。飼い主を忘れたのかと少し寂しい気持ちになる。家では絶対しばらくの間猫を野外で飼わないようにと注意され、一週間後にイチゴのあごに縫われた糸を抜くから連れてきてくれと猫の口を開け説明される。せっかくイチゴの口が締まったのに又何か硬い物を噛んで口が開いたままになったらどうしょうと恐れ慄く。
  家に帰りついたイチゴは食欲がありエサをねだる。獣医の話では、体力を回復させるまでエサを多く食べさせてくれと言われ高いペットフードを買わされる。嫌とは言えず量的にも10倍の値段のするエサを20缶も買わされ、心の中ではスーパーで買えば安いのにと思いながらも買い求める。これもイチゴのためだと買ったペットフードのエサをねだるイチゴにやるがイチゴは獣医でこの餌ばかりを食べてきたので、いらないと食べない。飼い主は「高いエサを買ったのに食べてよ」とイチゴに頼む。それでもイチゴはシラン顔をして外を眺め外に出してくれと動作で示す。こればかりは獣医で止められているので可哀想でも外に出してやる事が出来ない。
獣医が言っていた「手が掛かり面倒を見られないときは又連れて来てくれ」と言われたのを思い出す。でも何とか自分たちでイチゴの面倒を見てやりたい、庭にキャラバンがあるのでイチゴに夜はキャラバンに寝泊りしてもらう事にする。夜に何か失敗され
又あごが外れると今度は仕方なくイチゴを安楽死させなければならない、少々イチゴが泣いても心を鬼にして怪我の回復に努力しなければいけないと心に誓う。
  無事抜糸が終わり心なしかイチゴの顔がゆがんでいる様にも見えるが元の元気なイチゴに戻る。毎日閉じ込められた生活から開放され外に出たがるが100%外に出すわけには行かず、一緒に敷地の中を散歩して歩く。イチゴは嬉しそうに後をチョコチョコと付いて歩き少し離れては走って来る。飼い主はそんなイチゴの姿を眺め元気になったと喜び、このまま全快してくれと願う。入院生活のためか抱かれる事を嫌がるイチゴが抱かれ癖が付きやたらべたべたする猫になってしまったように思う。
しかし相変らずエサの好みがうるさくどうしてもカンズメを食べない、又エサを食べろ、食べないなら出てゆけ、お願いだから食べてよ、こんな毎日が戻ってきた。

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